2019年1月に発売された本書は、2021年1月時点で100万部を超える売り上げとなっています。
様々な著名人が絶賛するこの本。著者の「ハンス・ロスリング」さんは余命宣告を受けてもなお、この本の執筆に残りの人生を注いだそうです。
生涯をかけて筆者が伝えたかった世の中の真実。ハンスさんの生涯を賭けたこの本は、ハッとさせられる、たくさんの気づきがある本です。
Contents
人間に備わる本能
まず、本を進める上で欠かせない事実があります。
それは、「どんなに頭が良い学者でも、エリート経営者でも、世の中を正しく認知している人はほとんどいない」ということです。
大抵の場合、自分の専門分野以外は、どんな優秀な人でも無知であるそうです。それをハンスさんは、生涯をかけて知ったそう。
その証拠として、この本にも書かれている12の3択クイズ、どのジャンルの人たちに出しても正答率が30%を切る設問があります。
3択なら、適当に答えても33%の確率で当たるはず。
つまり、チンパンジーが答えても33%
なのに、人間が答えると30%を切る。優秀な学者も。国を背負うエリートも。それらを報道するジャーナリストさえ。(ハンスさんは、正答率が30%をきる度に、「みなさんはチンパンジー以下です!」と皮肉を言うのが公演での鉄板ネタだそう)
では、なぜチンパンジーより正答率が低くなるのか?
これだけ情報が飛び交う現代で、なぜ情報を正しく認知することができないのか?
その正体が、ハンスさんいわく人間の「脳の仕組み(本能)」にあるというのです。
理解すべき10の本能
具体的に、私たちの正しい認知を妨げている本能が
- 分断本能
- ネガティヴ本能
- 直線本能
- 恐怖本能
- 課題視本能
- パターン化本能
- 宿命本能
- 単純化本能
- 犯人捜し本能
- 焦り本能
の10個です。これらはいったい何なのか?
ひとつひとつ見ていきましょう。
分断本能
人間は、知らず知らず「二項対立」を作りたがるそうです。
「先進国」と「発展途上国」
「天才」と「凡人」
「正義」と「悪」
極端な話はわかりやすいし、興味を持ちやすい。そしてこの極端な分類が、世の中を間違って認識してしまう理由のひとつ。なぜなら、2つではなく4つに分けて考えて見ると、ほとんどの場合私たちは中間にいるからです。
分断本能に惑わされないために、私たちが注意すべきポイントは3つ。
- 平均の比較
- 極端な数字の比較
- 上からの景色
平均の比較
「分布」に目を向け、一人一人の数字を見ることで、より正確な全体像を掴むことができます。
極端な数字の比較
私たちは、多くの場合中間にいることを認識する必要があります。
上からの景色
例えば、世界の貧困レベルを下から1~4に分類した場合、日本は4。そこからレベル2、3を見ようとすれば、その違いが分かりづらいのが現状です。上からの景色は、本当は違いがあることを同一であるように感じるそうです。
ネガティヴ本能
私たちは、ネガティヴな情報の方がキャッチしやすい傾向にあります。
その理由は、人間の生存確率を上げるためにネガティヴが必要な本能だからだと言われています。
例えば、「このキノコは美味しい」という情報と、「このキノコには毒が入っている」という情報を耳にしたとき、そのキノコを「美味しいんだったら食べてみよう」と思う人はいないでしょう。
最悪の事態を想定したり、物事を悲観的に捉えることは、生きていく上で必要な能力であったと考えられています。しかし、安全の確保された今日の社会では、それがマイナスに作用する場合の方が大きいそうです。なぜなら、正確な情報さえ阻害してしまうからです。
友達から「Aラーメン屋すごい美味しいよ」と聞いたあとに、別の友人から「Aラーメン屋のラーメンにゴキブリが入ってたって噂で聞いたことがある」と言われたとします。親に「Aラーメン屋が美味しいらしいから食べ行こう」と言われたらどうしますか?
私だったら、噂で聞いたゴキブリの話をしてしまうと思います。
では、ネガティブな情報が多く出回る中で、正しく情報を分析するにはどうすれば良いのでしょうか?
自己認識
ひとつは「自分はネガティヴな情報の方がキャッチしやすい生物だ」という認識をもち、情報を分析することが大事だとハンスさんは述べます。
「悪い」と「良くなっている」は両立する
二つ目は「悪い」と「良くなっている」は両立するということを知ることです。世界はまだまだ課題だらけです。許され難い問題がたくさん起きている中で、「良い世の中だ」と安心しきってしまう訳にはいきません。
ただ、昔と比べて、確実に良くなっていることはたくさんあります。世界で起きている良い変化から目を背け、悲観的な部分にのみ焦点を当てることはバカバカしいことです。ゆっくりとした進歩に、私たちはもっと目を向ける必要があるかもしれません。
直線本能
私たちは、視覚を頼りに何かの軌道を予測することができます。ただ、何かがひたすら増え続けたり、減り続けたりすることはほとんどありません。現象をきちんと理解するために、グラフの形を理解する必要があるとハンスさんは述べます。
例えば、人口はここ数十年で劇的に伸びています。そして、2050年ごろには110億人を突破するとも言われています。そのグラフだけみると、
「世界はどうなってしまうんだ。食料は足りるのか、資源が枯渇してしまうのではないか」と不安になってしまいますが、冷静に出生率、経済状況等を照らし合わせて分析すると、そんなことはないことなど容易に判断できます。
「グラフで示されていない部分を、不用意に憶測するべきではない」とハンスさんは述べます。それが、間違った結論を生んでしまう原因になるのです。
恐怖本能
多くの人は、良くわからないものを疑い、反射的に怖がります。しかし、「恐怖」と「危険」は別物だという認識を持つ必要があります。
「恐ろしいと思うことは、リスクがあるように見えるだけだ」とハンスさんは述べています。
【リスク=「危険度」×「頻度」】
言い換えると
【リスク=「質」×「量」】
です。恐怖本能に振り回されないために、リスクを正しく計算できるようになる必要があります。
過大視本能
私たちは、目の前にある確かなものに気を取られてしまいます。物事を勘違いして認識しないために、ひとつの数字だけに注目しないこと。ひとつの数字がそれ単体で意味を持つことなどほとんどありません。
例えば、Aラーメン屋がむちゃくちゃ繁盛しているとします。そのオーナーが今度はA居酒屋をオープンすると、それもまた大繁盛。そうすると、「Aを経営するオーナーはむちゃくちゃできる経営者に違いない!」と思うでしょう。
しかし、もしかするとその区域が今人口流入が始まっていてたまたまヒットしたのかもしれないし、オーナーが有名人と知り合いで、その有名人がSNSで発信したことが原因だったかもしれない。
過大視本能を抑えるために大切なのは数字の「比較」と「割り算」だそうです。
選択の効率を落ち着いて計算できるようになりましょう。特に、「一人あたり」に注目すると、大きい数字を客観的に見れるとハンスさんは述べています。
パターン化本能
私たちは、不確実な根拠で物事をパターン化し、当てはめてしまいがちです。間違ったパターン化は思考停止に繋がり、正しい理解を妨げてしまいます。間違ったパターン化をしてしまわないようにするためには、分類を常に疑うことが必要です。
そして、分類を見直すために役立つ方法が5つ。
一見筋の通った理屈が善意と結び付くと、パターン化に気づくことはほぼ不可能であるそうです。だからこそ、あらゆることに好奇心を持ち、謙虚になって考える姿勢が大切です。
宿命本能
宿命本能は、持って生まれた宿命によって行方が決まっているという思い込みです。
ただ、人も文化も宗教も変わっていくもの。データを常にアップデートし続けることで、世の中の変化に気づき、この本能を抑えることができます。
単純化本能
様々な物事に、ひとつの原因、ひとつの解答を当てはめてしまう傾向が単純化本能です。
そうならないためには、自分が肩入れする考え方の弱みを探すことが大切だとハンスさんは述べます。自分の逆に意見も積極的に取り入れることで、世界を理解するヒントが得られるそうです。
「子供にトンカチを持たせると、なんでもくぎに見える」ということわざがあるように、専門知識やスキルを持っていたら、それを使いたくなるのが人間というもの。努力して身につけた知識やスキルを他にも無理に使おうとすると、結果として正しい解決法を妨げてしまいます。
特定の思想に凝り固まると、ひとつの考え方や解決策にとらわれ、かえって社会に害を与えてしまう。だからこそ、様々な角度から物事をみた方が良いのです。
犯人捜し本能
何か悪いことが起きた時、単純明快な理由を見つけたくなるのが人間です。
ただ、個人を動かしているのは社会です。解決には、問題を引き起こすシステムを見直すことが重要だとハンスさんは述べます。犯人捜しをするのではなく、その状況を生み出したシステムを理解することに力を注ぐのです。
逆に物事がうまくいった時、「社会基盤とテクノロジーのおかげ」と思った方が良いと著者は述べています。人は、ヒーローを讃えがちです。しかしそこに至るまでに関わる多くの人がいてこそのものだという認識を持つことが大切です。
焦り本能
現代社会には、差し迫った危機はほとんどなく、複雑で抽象的な問題にぶつかることの方がはるかに多いです。焦りを感じると、正しい分析はできなくなり、すぐに判断したくなり、隅々まで考え抜く前に手を打ちたくなる。
焦り本能は、人を行動に駆り立てることはできるが、不必要なストレスを感じたり、間違った判断に繋がることもあります。必要なのは
- 総合的な分析
- 考え抜いた決断
- 段階的な行動
- 慎重な評価
です。未来には必ず見えない部分があります。だからこそ、未来を語るときはどのくらい見えていないかをはっきりさせた方がいいとハンスさんは述べます。
大抵の情報は誇張されています。だからこそ、最悪のシナリオと最高のシナリオを想定し、そこには幅があることを認識する必要があります。
最終章
最終章に、ファクトフルネスを実践するための方法が書かれているので、その一部をピックアップします。
- 今の自国が出来上がるまでの進歩を知る
- 反対に見える2つのことが両立することを知る
- 文化や宗教のステレオタイプは世界を理解するのに役立たないことを知る
- 知識と世界の見方をアップデートし続ける
- 何より、謙虚さと好奇心をもつ
謙虚であるということは、言い換えると「本能を抑えて正しく事実を見ることがどれだけ難しいかに気づくこと」です。「事実に基づいて世界を見ることは、ドラマチックなものの見方よりストレスは少なく、心が穏やかになる」とハンスさんは述べています。
だからこそ、ファクトフルネスは今必要なのです。
感想
私はこの本を読んで、「正しい情報を受け取り、伝達できる人間になりたい」と思いました。なぜなら、それが「これからの社会をよくし続けるために自分達にできることはなんなのか」を考えるための最初の出発点だからです。そのためにも、以下の3つを実践していく必要があると考えています。
長くなりましたが、とてもためになる本です。
ぜひ一度読んでみてください。